さかの道

さかが駄文を書き連ねるようですよ。

機密

今自分の前に立ちはだかっている壁が何かと言えば当然宿題であると断言出来る訳だが、正直何故こんなことになっているのか自分にはさっぱり分からない。というより意味が分からない。



夏休みが一ヶ月以上あるとは到底思えない。それは常に感じている事である。日記なんぞをつけていようものなら、一日ばかりサボタージュしてしまうと何故か一週間程の空きが出る。私の日記を見ようものなら二週間程空いている。がらんどうの日記を前に、私は涙を流した。
そもそも本当に夏休みが一ヶ月以上あるのだとすれば、宿題が終わらないというのは、私がこんなに勉学に励んでいないというのは実に奇妙な話だ。仮にも学生という身分の我が身、本当ならバリバリ勉強をせずにいられない筈なのである。
埋まらない日記、終わらない宿題。元凶は全て夏休みの日数の錯覚だったのだ。この大いなる事実を前に、鳥肌が引く間も無い程の戦慄を覚えた。



しかし、それならば夏休みを長く見せかけようとする理由は何だ。ジバニ○ンのストラップを撫でつつ、私は思案する。ここまで明白な事実を今までに誰も指摘する者がいないということは、まさかそこには何か国家レベルの重要機密が隠されているのではないか。気付いた瞬間、全身から血の気が引いていった。そうだったのか、道理で…

「気付いてしまったようだな」

そんな声が聴こえたのと、私が意識を失ったのはほぼ同時だった。



「こ、ここは…」
私が目を覚ますと、見慣れない真っ白な天井がまず目に入った。その次に、今自分はベッドに寝かされているのだと分かる。目線を他の場所に向けると、白衣姿の人々が忙しなく動きまわっていた。一体ここは…
私が目を覚ましたのに気付いたのか、その内の一人がこちらに歩いてきた。
「やぁ。調子はどうだ?」
彼から話を聞いたところによると、ここは精神病院のような場所らしい。危険思想を持つ人や、妙な妄想に取り付かれた人。そういった人々を収容するそうだ。
「君は友人に連れられて来たんだね。彼、大層心配してたよ」
自分に友人が居た覚えは無いが、そうだったのか。どうも頭が上手く働かない。ここに来るまでの直前の記憶が無いので良く分からないが、そういうことなのだろう。

大分落ち着いた様だしもう家に帰っても大丈夫だよ、と言われ帰路につく。急いで帰らなければ、何しろたっぷりと宿題が残っている。夏休みは一ヶ月以上あるのに今の今までやらなかった自分が悪いのだから、頑張って終わらせなければならない。